
GFCから20年を経た今、何が起きたのかだけでなく、なぜ起きたのかを改めて検証する意義があります。この危機は、組織上の優先事項によって投資対象そのものの魅力を顧みず、買われ過ぎたセクターに資金が集中する場合に、不芳な結果が生じやすいことを改めて示しています。
歴史がそのまま繰り返されることは稀ですが、似た韻を踏むことは少なくありません。現在のプライベート・クレジット市場の一部にはGFCとの注目すべき類似点が見られ、当時の教訓は今なお重要です。投資家にとっての機会は、こうした類似点を早期に認識し、取り得る結果の幅が狭まる前に対応することにあります。
借り換えブームからリスク拡大へ
GFCの興味深い側面の一つは、その到来を予見した人がいかに少なかったかという点です。炭鉱のカナリアのような警告は一部で発せられていたものの、ウォール街のコンセンサスは2007年後半に入ってもなお強気でした。その一方で、住宅ローン市場では警戒信号が増えていましたが、エコノミストやストラテジストは、そこで生じていた問題がやがて銀行システム全体を脅かすことになるとは見抜けませんでした。
それまでの市場の変遷をたどると、ITバブル崩壊後、さらに9月11日の同時多発テロ後の時期に行き着きますが、この間、米連邦準備制度理事会(FRB)は景気浮揚を目的に積極的な金融緩和を進め、金利を引き下げました。借り手が低金利を固定しようとしたことで借り換えが急増し、新規住宅ローンの拡大を背景に住宅ローン担保証券(MBS)市場も大きく成長しました。投資家は、より低いリスクで高いリターンが期待できる投資先を求めていたのです。
複数の銀行はMBS業務の垂直統合を進めました。すなわち、MBSのライフサイクルにおける一工程だけでなく、すべての工程を自社で担うようになったのです。このモデルは銀行に過去最高益をもたらし、幾重にも収益を生み出す仕組みを形成しました。しかし、その仕組みを稼働させ続けるには、住宅ローンの組成を絶えず供給する必要がありました。
住宅ローン組成額は2001年の約1兆米ドルから2003年には約4兆米ドルへ増加しましたが、2004年までにその内容が変化し始めました。1 住宅価格の上昇が続くとの前提の下、銀行はサブプライム層への融資を拡大し、毎回の返済額が金利分を下回り、元本残高が増える可能性のあるネガティブ・アモチゼーション型ローンも一般化しました。2006年までには、融資の約70%が非従来型となりました。2 わずか数年で、業界は非適格住宅ローンを成長の原動力とする構造へ転換したのです。
業界はサイクルが自然に減速するに任せるのではなく、それを延長する方法を見つけました。既存の住宅ローン・リスクは再パッケージ化され、変換され、レバレッジがかけられ、原資産である融資の実態を大きく上回る格付けを付された商品として再配分されました。その後、銀行はこうした高リスク資産を自らのバランスシートでも保有し始めました。
住宅価格が伸び悩み、債務不履行が増え始めると、これらの融資に内在していた脆弱性は無視できなくなりました。低品質の住宅ローンは想定を大幅に上回る割合で債務不履行に陥り、銀行に巨額の損失をもたらして、一部銀行の破綻を引き起こしました。GFCが本格化したのは2008年でしたが、連鎖的な崩壊を招く要因は2006年までにすでにそろっていました。
得られた教訓
GFCから学ぶには、なぜ銀行がこれほど多くのリスクを引き受け、そこからの撤退がなぜ遅れたのかを問う必要があります。第一の問いへの答えは、銀行が住宅ローン担保証券化のプロセスを工業化し、リスクを追加し続けなければ維持できない収益構造を作り上げたことにあります。
第二の問いはより難しいものですが、最も明白な答えは、利益が意思決定プロセスの最優先事項となり、投資対象の魅力度が構造的・組織的な要請の後ろに追いやられたことです。重要なのは、適格ローンの投資機会が減少しても、商品供給を途絶えさせることなく、単に非適格ローンへ移行した点です。言い換えれば、市場は問題解決に際して誤った方向へ進化しました。すなわち、リスク・リターン環境の変化に対応するのではなく、仕組みを稼働させるための住宅ローン不足に対応したのです。
歴史は韻を踏む
冒頭で述べたとおり、歴史はしばしば韻を踏みます。過去と似たリズムを見いだすことができれば、以前の過ちから学べる可能性があります。
GFCから得られる主な教訓は二つです。第一に、構造的・組織的な優先事項を投資対象の妥当性よりも重視すると、不芳な結果につながること。第二に、買われ過ぎたセクターへ資金を注ぎ続ければ、最終的に悪影響が生じることです。
現在、一部の市場セグメント、特にオルタナティブ投資では、組織構造上の判断を優先する傾向がうかがえます。例えば2008年以降、機関投資家は大手運用会社を選好してきました。3ハーバード・ビジネス・スクールのノリ・ジェラード・リエッツとフィリップ・チュバノフによる2024年のワーキングペーパー「プライベート・エクイティへの投資根拠は今なお有効か」では、GFC以降、最大手20社のプライベート・エクイティ(PE)運用会社に資金が集中していると指摘しています。また、この集中が必ずしも報われているわけではなく、これらメガPEファンドの70%は第1四分位に複数回入っていないとしています。
プライベート・クレジットでも同様の傾向が見られます。新規参入運用会社の平均ファンド規模は、米ドルベースで2008年以降縮小しており、ここ数年でその傾向が加速しています。4これは、同期間にプライベート・クレジット市場へ流入する資金が大幅に増加し、その資金がますます大手運用会社へ向かっていることと対照的です。2019年には、上位10のクレジット・ファンドがプライベート・クレジットの調達額の28%を集めましたが、2024年には60%へ上昇しました。5
大手運用会社への資金流入を促した要因はいくつかあります。第一に、2008年以前は、オルタナティブ運用会社の実績が第1四分位に入るとそれが持続する傾向が見られたため、初期に好成績を上げた運用会社へ投資を継続することには合理性がありました。GFC後は多くのセクターでこの傾向が見られなくなったものの、初期に成功した運用会社は、その評判を基に引き続き資金を集めました。
第二に、機関投資家は、多数の運用会社で構成される大規模なポートフォリオの管理には時間とリソースを要することを認識しました。そのため、採用運用会社を絞り込み、より少数の会社へ配分するようになり、資金集中が進みました。運用会社数の減少は一社当たりの配分額の増加を意味します。各ファンドに占める自らの出資比率が過大になることを避けようとする中で、選択可能な運用会社の範囲はさらに狭まりました。
第三の理由は、人間心理に帰着します。機関投資家の運用チームは、大胆な判断が不芳な結果に終わった場合、その責任を問われがちです。大手運用会社の実績、リソース、事業規模を踏まえると、他の大手機関投資家からも資金を集める著名な運用会社に投資する方が、レピュテーション・リスクは小さくなります。
これらの理由には合理性があり、大手運用会社を選ぶ個々の機関投資家を非難することはできません。しかし、多くの機関が同じ論理を採用すれば、市場力学がゆがみ、最適とは言えない結果につながりかねません。
過密化する市場
限られた投資機会に対して過剰な資金が競合すると、通常は二つのいずれかが生じます。超過アルファが競争によって失われリターンが低下するか、投資家保護が薄いより高リスクの資産へシフトするかです。純粋に投資の観点から見れば、資金は競争の少ない分野の小規模運用会社へ向かうべきでしょう。しかし、組織的・構造的要因が投資判断で引き続き過大な役割を果たしているため、実際には逆のことが起きています。
その一例として、プライベート・クレジットの資金調達に占めるダイレクト・レンディングの割合は、2023年の54%から2024年には79%へ急上昇しました。6この時期、多くの投資家は、ダイレクト・レンディングに資金が流入し過ぎているのではないかと強く懸念していました。しかも、その資金の大半は一握りの運用会社へ向かいました。彼らは、同じ大型企業向け市場での投資を行うだけでなく、同一案件にまで投資していました。
幸い、ファースト・ブランズ・グループやトリカラー・ホールディングスの破綻に関する2025年の報道は、すでに過去のものとなった可能性が高いでしょう。当初取り沙汰された信用不安の連鎖は明らかに誇張されていましたが、これらの事例は、一部の大手運用会社が資金を投じるために引受基準を緩めた可能性を示唆しています。少数の巨大運用会社が多額の資金を集め、比較的狭い市場への投資を行う状況では、こうした傾向が続く公算があります。一部の運用会社は、案件組成、投資、証券化、資金調達に加え、傘下の保険会社まで統合し、ダイレクト・レンディング市場を工業化しました。規律を維持している運用会社も確かに存在しますが、集めた資金を投資に回さなければならない状況では、その姿勢を貫くことは容易ではありません。
より良い成果に向けた調整
現在の環境は、投資委員会がより良い成果を目指して方針を調整する機会となり得ます。第一歩は、投資判断を動かしている要因を把握することです。それらを十分に理解すれば、次の調整が可能になります。
例えば、ベンチマーク追随からより自由になれば、機関投資家の運用担当者は、単に同業者に追随するのではなく、基礎的ファンダメンタルズに沿った長期的な投資判断を行いやすくなるでしょう。そのためには勇気が必要であり、適切なリスクテイクを奨励し、リスクを取る担当者に安心して行動できる環境を提供することが求められます。プライベート・クレジット、プライベート・エクイティ、その他のオルタナティブ投資分野には確かに投資機会がありますが、特定のセクターに流入する資金量と、その資金フローが投資機会のリスク・リターン特性に及ぼす影響を注視すべきです。
理想的には、投資機会の必要性に見合った資金が集まり、個々の投資はそれ自体の妥当性に基づいて実行されるべきです。これらは単純な原則ですが、組織の複雑さや目先の雑音の中で見失われがちです。GFCは多くの痛みをもたらしましたが、注意深く振り返ることで、いくつかの教訓も得られるはずです。
重要な情報
オルタナティブ投資:コモディティ、不動産、通貨、ヘッジ戦略、先物、仕組商品、および市場との相関が低いことを目的としたその他の有価証券などが含まれますが、これらに限定されません。一般にリスクが高く、すべての投資家に適しているわけではありません。
プライベート・クレジット:従来の銀行融資以外の直接融資またはデット・ファイナンスを指し、通常は非上場企業を対象とします。流動性が限定的であること、借り手の財務状況への依存度が高いこと、従来の銀行融資と比べて規制上の監督が限定的であることなど、より高いリスクを伴います。
モーゲージ担保証券や資産担保証券などの証券化商品:金利変動の影響を受けやすく、償還期間延長リスクや期限前償還リスクを伴うほか、その他の債券と比較して、信用リスク、評価リスク、流動性リスクが高くなります。
2 “The Transformation of Mortgage Finance and the Industrial Roots of the Mortgage Meltdown,” Adam Goldstein and Neil Fligstein, University of California, Berkeley, 2014年7月、21ページ
3 PitchBook: Private Fund Strategies 2020 Annual Report.
4 Preqin 2025 Global Report: Private Debt. 2024年12月11日
5 Preqin 2025 Global Report: Private Debt. 2024年12月11日
6 Preqin 2025 Global Report: Private Debt. 2024年12月11日
金融政策とは、経済におけるインフレ率および成長率の水準に影響を与えることを目的として中央銀行が行う政策を指します。これには、金利およびマネーサプライの調整が含まれます。金融刺激策または金融緩和とは、中央銀行がマネーサプライを増加させ、借入コストを引き下げることを指します。
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