
AIは、引き続き世界の株式市場における最大の原動力となっています。投資家は、最先端のフロンティアAIモデルが備える能力の向上に強く引き付けられています。その一方で、前例のない投資規模、そして巨額のコストを伴うAIインフラの構築は依然として論争の火種となっており、AIに楽観的な人々と、将来のリターンがこれほどの投資額を正当化できるのかを懸念する人々とを二分しています。
この二つの注目テーマは、どちらか一方だけを切り離して見ることはできません。むしろ投資家は、これらの動きが「世界経済における働き方を根本から変革する」という共通の目的を持っていることを理解する必要があります。
言葉よりも実績で評価する
AI時代の初期には、この革新的な技術が実際にどう活用され、生産性をどこまで高めるのかについて、その多くが推測の域を出ませんでした。しかし、状況はもはや異なります。直近の決算シーズンでは、AIがこれまでの高い期待に応え始めていることが、具体的な数字となって表れています。
重要なのは、直近までの四半期とは対照的に、経営陣のコメントがAIの導入指標からAIの財務成果へと移った点です。経営陣がAIの財務的インパクトを強調する領域には、営業利益率、生産性の向上、売上の創出、さらには実際の業務フローまでが含まれます。そして、コーディングに重点を置くテクノロジー企業や、自動化で先行してきた資本財関連企業がAI導入の最前線に立つ一方で、ヘルスケア、金融、消費、素材関連の企業も、この技術の統合がどのように利益に貢献しているかを報告しています。
こうしたAI効果の広がりは、私たちにとって意外なことではありません。私たちはこれまでにも、AIを「イネーブラー(基盤提供者)」「エンハンサー(活用高度化企業)」「エンドユーザー(最終利用者)」の3つのカテゴリーに分けて論じてきました。AIインフラ関連の受注残が積み上がっていることを踏まえれば、ハイパースケーラー(大規模なクラウド事業者)を筆頭とするイネーブラーは、いまなお中心的な存在です。
しかし、残る2つのカテゴリーも、ようやく議論の俎上に載ってきました。これは私たちの見方では、大きな投資上の意味を持ちます。なぜなら、①すべての企業がAIの導入で同じ水準の成功を収められるわけではないこと、②四半世紀前のデジタル革命で示されたように、経済的な恩恵の大半は新技術の「エンドユーザー」から生まれること、の2点があるからです。私たちは、これと同様の転換点にさしかかっていると考えています。
利益率を注視する
AIが企業業績に与える影響を測るため、私たちはAIモデルを用いて、上場企業109社の直近の決算資料を精査しました。このうち69%が、生産性の向上とAIに関連するコスト削減による何らかの利益率の改善を開示していました。
利益率が改善した企業の比率自体は想定内でしたが、その改善幅には驚かされる例が数多くありました。例えばIBMは、2025年にAI関連で45億米ドルのコスト削減を実現したと表明しています。他社と同様、IBMも業績見通しでAIに言及することに自信を深めており、この削減額を2026年に55億米ドルへ引き上げることを目標としています。金融セクターでは、ペイパルが年間換算で15億米ドルのコスト削減を市場に示しており、その多くはAIがもたらしたものです。
利益率の改善は、オペレーティング・レバレッジ(売上増が利益を押し上げる効果)と製品開発費の減少の両面から生じています。前者については、アルファベットが社内のソフトウェア・コードの約50%はAIエージェントによって書かれていると報告しています。後者については、ネット通販・電子決済大手のメルカドリブレが同項目を前年同期比で120ベーシスポイント(bps)低下させたと報告しています。これらの事例は、コスト削減の多くが、システム開発(コーディング)や顧客対応の分野で生じているという傾向を示しています。メルカドリブレはまた、顧客からの問い合わせをAIが解決できた割合が90%に達したと発表しました。
機械学習という基盤の上に築かれたAIは、現在では工場の製造現場や鉱山の操業にも広がっています。日立製作所は、ある拠点で在庫を50%、リードタイムを77%削減しました。銅の鉱山会社であるフリーポート・マクモランは、鉱石処理量を10%高めつつ、単位コストを最大15%削減したと報告しています。エネルギー・セクターでは、シェルが年間4億米ドルのコスト削減と、計画外の稼働停止の45%削減を発表しました。
売上への波及を捉える
AIによる業績の押し上げは、利益率にとどまりません。分析対象企業のうち26%の企業がAIが増収に与えた影響について言及しており、その多くはテクノロジーおよび消費関連セクターでデジタル・プラットフォーム(ネット上のサービス基盤)を運営する企業でした。
複数の企業が挙げた注目点の一つは、デジタル・アシスタント(AIによる購入支援サービス)が売上の成長に寄与しているという点です。例えばアマゾンのアシスタントは、年間120億米ドルの小売売上の上乗せに貢献したとされています。ウォルマートは、ショッピング・アシスタントを利用した注文の金額が、利用しなかった注文と比べて35%大きかったと報告しています。
広告収入が売上の大きな部分を占めるプラットフォームも、AIによって成果が改善したことを示しました。象徴的な例として、アルファベットのAI Maxというツールは、コンバージョン件数(購入や申込みにつながった件数)を15%増加させたとされています。広告を出稿する側でも、動きが見られます。日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、「Auto-Bidder」と呼ばれるシステムを使い、リアルタイムの小売データに応じて15分ごとに広告の入札額を調整しています。同社によれば、その結果、従来の固定的な入札方式と比べて、自社ブランド商品の売上に対するリターンは4倍に高まったといいます。
より賢く働く
AIの影響を受ける可能性が高い業務プロセスの多くは、人手に頼る部分が大きい傾向にあります。生産性はより少ない資源でより多くを生み出すことと定義されることがありますが、これまでのところAIは同じ資源でより多くを生み出すことを実現しています。
分析対象企業のうち複数社は、従業員数を横ばいに保ちながら成長したと報告しています。各社のコメントから、AIは反復的な業務や大量の処理を伴う業務に適用したときに最も効果を発揮していることが分かります。これにより企業は、労働力をより付加価値の高い業務へ振り向けられるようになっています。
多くの企業が追加の採用を抑制しており、人員削減も行われていますが、これは事業の成長と従業員数の増減が、必ずしも結びつかなくなってきているという新たな傾向を示すものです。一例として、JPモルガンは2030年までに個人向け銀行部門の人員を10%削減する一方で、同事業を25%成長させることを見込んでいます。セクターを問わず、企業は限定的な試験導入から、従業員全体へのライセンス拡大へと段階を進めていると報告しています。
こうした取り組みが足元の企業業績に表れている一方で、将来の経済的な価値の創出を狙ったAIの用途もあります。例えばファイザーは、創薬、臨床試験、製造にAIを組み込むことで、中期的に企業価値が最大40億米ドル増加すると見込んでいると述べています。
証拠に基づいて行動する
私たちは、これらの事例はまだ始まりに過ぎないと考えています。他のAIエンハンサーやエンドユーザーも、この技術を革新的かつ独自のかたちで活用していくと見ています。導入の速度と広がりは、投資において重要な意味を持つと考えます。早期に動いた企業が対応の遅い同業他社に対して優位となる一方で、AIがもたらす破壊的な影響を過小評価し、取り残される企業も出てくる可能性があります。今後の決算シーズンでは、こうした企業間のばらつきがさらに明らかになると予想しています。
投資家は初めて、AIの財務的な影響を測るために実際のデータを分析する機会を得ました。株価は企業の業績を反映するという私たちの基本的な考え方に照らせば、AIの導入を増収、利益率の拡大、そして最終的には増益へと結びつけられる企業を見極めることが重要であると考えます。
そして、AIが牽引役であり差別化の要因となっているのは、株式市場だけではありません。利益率の改善は、AIの活用に前向きな企業のカバレッジ・レシオ(利益で利払いをどれだけ賄えるかを示す指標)を改善させる可能性があるため、債券市場にとっても注目すべき材料です。
逆に、AI投資サイクルの規模を踏まえれば、顧客に対して最も優れた価値を提供できるハイパースケーラーは、負債を返済するためのキャッシュフローを生み出すうえで、より有利な立場にあると考えられます。一方、効果的な戦略を描けない企業は、過大な負債を抱えた財務体質になりかねない点に留意が必要です。
重要な情報
人工知能(AI)に注力する企業、AI技術を開発または活用する企業:製品の陳腐化が急速に進むリスク、激しい競争、ならびに規制当局による監視強化に直面する可能性があります。これらの企業は、知的財産への依存度が高く、研究開発への多額の投資を行っており、消費者需要の維持および拡大に左右される傾向があります。これらの企業の証券は、より確立された技術を提供する企業と比べて価格変動が大きくなる可能性があり、また、事業運営におけるAIの利用に起因する法的責任やレピュテーション(評判)リスクなどの影響を受ける場合があります。
株式投資には、市場リスクを含むさまざまなリスクが伴います。リターンは、発行体の状況や政治・経済環境の変化に応じて変動します。
テクノロジー関連業種: 既存技術の陳腐化、短い製品ライフサイクル、価格および利益率の低下、新規参入企業との競争、ならびに一般的な経済環境の影響を大きく受ける可能性があります。特定の業種に集中した投資は、分散された投資や市場全体と比べて、価格変動が大きくなる可能性があります。
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